「明星の家」は三重県南東部(伊勢志摩地方)の明和町にある。天照大神に仕えた斎王が住んでいたとされ、歴史情緒が漂う。敷地の東側隣地には史跡公園の木々が、北側には竹藪があり、敷地の北東の隅に住まいを据えることは土地の歴史性と緑の豊かさを享受するための最善の選択となった。
周辺環境と建主の要望を考慮した結果、西側には公道からの距離をとるために倉庫棟(2期工事)と水廻り諸室を、北西角には寝室、北側の竹藪に沿って個室を並べ、それらをL型に繋ぎ合わせて配置した。住まいの中心はおおらかなワンルームのLDK空間とし、コンパクトにまとめた諸室群とのコントラストを鮮明にしている。その対比の緩衝地帯としてL字の廊下が伸びている。東西南北からの光と、風が通り抜け、季節ごとに表情を変えるこの廊下は、単に公(LDK)と私(個室)の心理的な切り替えを超えた豊かさがある。
建物ボリュームについては、北西角に視線の抜けをつくり南東側には軒を設けるため、主屋は方形屋根(1.5寸勾配)を1/4に切り出した形状の屋根とした。主屋にL型の下屋(1寸勾配)がとりつき、建築の形と空間の在り方を統一させている。
LDK空間の中心には、集成材ではなくヒノキの製材を用いた2方向から支え合う張弦梁を採用し、無柱とすることで主屋空間の中心性を強調させた。この特殊な構法を実現させるためモックアップを製作し、構造家や施工者と入念に打合せを行ったことで、この建築をつくりあげたいという皆の想いも一層強まった。
伊勢志摩地方は「下から雨が降る」と言われるような風を伴った雨が多い地域のため、屋根の掛け方は建物の寿命に深く関わる。軒を適切に伸ばすことで外壁を守り、同時にその地域のあるべき建物の姿をつくりたいと常に考えている。外壁には三重県南部で豊富に取れるスギ赤身の二分三厘荒板材を縦張り押縁とし、地域の風土に溶け込む自然な外観を目指した。無垢材は傷んでも容易に交換が可能で、長く住まうことにも繋がる。また、豊富な資源を利用し地域循環に貢献していくためにも地元産の材料を使うことが大切である。この住宅では外壁のスギをはじめ、表には見えない構造材にも地元の材料を積極的に採用している。人間が食べるもので出来ているように、建築はそれをつくる材料から出来ている。だからこそ、その地で育った材料をできるだけ用いた建築を実現していきたい。
伊勢神宮を訪れると、各社殿に至るまでに明確な設計意図を感じる。道の振幅や木々の隙間から差し込む光、体の向きを変えさせる参道、鳥居の配置などが補い合い共鳴することで豊かな参拝を体験する。明星の家においても空間が補い支え合う関係性を構築することで、住まい手の豊かな日常に寄り添い、家族同士の繋がりや街の歴史や場所性を紡いでいく助けになることを願っている。
明星の家 / House in Myojo, Residence
Constructor:萩原建設
Structural Design: 柳室純構造設計 / Jun Yanagimuro Structural Design
Gardener: 西村工芸 / Nishimura kougei
Completion: 1st term(House) /Sep 2021 , 2nd term(warehouse & garden) Jul 2022
Location: Takigun, Mie, JAPAN
Photo: ©ToLoLo Studio